造園用語集

手水鉢


造園用語集

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手水鉢

項目 手水鉢 / ちょうずばち
英語 -
意味 手を洗い口をそそぐための水をはった鉢。木製・陶製・金属製のほか庭園では石造が多く用いられ点景物としての効果も高い。手水鉢を中心に構成するものとして、(1)縁先手水鉢(鉢前)、(2)つくばい、(3)掛け・吊り用の3種類がある。縁先手水鉢の役石には蟄石(かがみいし)、水揚げ石・水汲み石・清浄石がある。蟄石は濡縁の下に置かれ、縁の下に水が入るのを防ぐためのもので青石が好まれる。水揚石は手水鉢の奥へ半ばかくすように置き、水を補給するために乗る台石。水汲み石は、平らな石で手水鉢の手前脇に置き、貴人手水のとき臣下がこの石の上に乗って水を汲んで差し上げるための石である。清浄石は袖垣側に手水鉢や水汲み石と釣合よく配置される形よい立石をいう。そして手水鉢前には余水を流す排水口があり、これを水門という。周囲は漆喰・玉石などの縁を付けて鉢とする。つくばいには手水を使うときに乗る前石、冬季湯桶を置くための湯桶石、夜会の手明りを置く手燭石の三役石(→つくばい)、吊掛け用には蟄(かがみ)石・水汲み石・清浄石の三役石があり、いずれも景趣本位に構成され助勢石を加えることもある。役石の取捨選択は自由。手水鉢の水はときどき取り替え、冬氷結して破損の恐れあるときは砂を入れて保護することもある。手水鉢の種類は、(1)自然石の形を尊重した富士形・一文字形・唐船形・貝形・司馬温公形・鮟鱇(あんこう)形・誰(た)が袖(そで)形など、(2)加工したものに湧玉形・鉄鉢形・菊鉢形・棗(なつめ)形・壺形・瓶形・露結(ろけつ)形・太鼓形・円盤形・円星宿・橋杭形などの球筒型や、銀閣寺形・方星宿・難波寺形・銅壺形・厳海形・桝(ます)形・銭形などの方形型のほか、袈裟形・四方仏形などの球筒または方形型のもの、(3)石燈籠や石塔類の部分や伽藍石などを廃品利用した見立てもの。次に手水鉢の代表的な形を説明すると、「富士形手水鉢」は富士山のように裾を引いた自然石に頂部へ水穴を設けたもの。小形で自然の妙味が尊ばれ根張りが珍重される。本歌は鹿苑寺夕佳亭にあり、足利義政遺愛の品と伝えられている。「一文字形手水鉢」は細長い自然石の上面を平らに加工し,水穴を一文字のように細長くあけたもの。青蓮院(しょうれんいん)のものが代表例。書院の縁先に用いられる。「湧玉形手水鉢」は球形で水穴円くふた付きのものもある。正面に湧玉の文字、時には仏像が彫られ、五輪塔の水輪を利用した見立てのも多い。本歌はなく多くは台石上に載る。「棗(なつめ)形手水鉢」は抹茶の入っている棗形容器に似てその名がある。長球形で水穴は円。妙心寺玉鳳院のものが本歌、書院用の手水鉢である。「露結(ろけつ)形手水鉢」は下細み円筒形で水穴は二重、前面に露結の文字が彫られている。露結耳すなわち兎の耳を意味し荘子の「得兎忘蹄」による。孤篷庵忘筌(こほうあんぼうせん)席のものが本歌で、小堀遠州好み。「円星宿」は長円筒形で生込み用。水穴は円で正面に星の文字が彫られている、南禅寺のものが有名。「銀閣寺形手水鉢」は四角形で底部に円座が付き水穴は円。四面に異なった源氏格子状の模様が意匠され袈裟形手水鉢の変形。慈照寺の方丈と東求堂(とうぐどう)の間にある。「方星宿」は柱状方形で掘込み用。水穴は円、正面やや上に星の文字が篆刻(てんこく)されている。文字のないものもあり江戸末期ごろ流行した。書院縁先用、「桝(ます)手水鉢」は方形内に同じ方形の水穴を斜めに彫ったもの。桂離宮外腰掛待合にあるのが好例。「銭形手水鉢」は「布泉手水鉢」といい、円形で上面やや広く外周の円内に方形の水穴が膨られている。水は方円の器に従い人は善悪の友によるという故事に関係する。また水穴の外に布泉の文字が彫られ、布は流通を示す上古の貨幣、泉は水が湧き出ずることから遠州の茶道が世間に広く伝わることを念願したもの。夏は外周の円まで、秋以後は方形のみに水を張るのが習わし、孤篷庵山雲床席の前にあり小堀遠州好み。「袈裟(けさ)形手水鉢」は石造宝塔の塔身を利用した円筒形のもの。四角形のものもある。回りに僧侶の袈裟状の模様が彫られその名がある。堺の南宋寺に利休遺愛のもの。西翁院淀看席(よどみせき)の庸軒好み、東本願寺渉成園縮景亭のものは鎌倉時代の宝塔塔身利用のものとして有名。「四方仏手水鉢」は宝篋印塔(ほうきょういんとう)や石層塔などの軸部(塔身)を利用した見立てもの。四面に仏像が彫られてその名がある。石造美術家は、しほうぶつ、茶人たちは、よほうぶつ、と称し古い物ほど珍重され、縁先や降りつくばいによく用いられる。
五十音順
あ い う え お
か き く け こ
さ し す せ そ
た ち つ て と
な に ぬ ね の
は ひ ふ へ ほ
ま み む め も
や ゆ よ
ら り る れ ろ
わ